2016.12.24
酒気帯び運転で事故を起こした人が、自分が被った損害について、自分の加入している保険会社に対し、人身傷害保険や車両保険の請求ができるかという問題があります。
道路交通法65条は、酒気帯び運転を禁止しています。
ただし、道路交通法は、酒気帯び運転のうち、一定の場合に限って刑事罰の対象になるものとしています。
保険の約款上は、道路交通法65条の定めと同じく、酒気帯び運転全般について免責事由とされています(刑事罰の対象となるような酒気帯び運転に限定されていません。)。
しかしながら、たとえ酒気帯び運転に該当したとしても、刑事罰の対象にならないような酒気帯び運転であれば、免責事由に該当しないと解すべきであるという主張が存在します。
そのような立場に立った裁判例も存在します(大阪地裁平成21年5月18日判決)。
しかしながら、裁判例の多数は、約款の文言通り、酒気帯び運転全般について免責事由と解しています。私も、この立場が妥当であると考えます。
約款の文言は、酒気帯び運転全般を免責事由と規定しています。文言が非常に明確であって、他の解釈を採る余地は乏しいといえます(これに対し、約款の文言が不明確で、合理的に考えても複数の解釈が成り立つ場合は、契約者有利の解釈を採るべきといえます。)。
また、飲酒運転の危険性が高いこと、飲酒運転者に対して保険金を支払うことによって飲酒運転を助長することにもなりかねないこと等の事情も踏まえると、約款の文言を明らかに無視して、別の解釈を採る必要性も乏しいといわざるを得ません(これに対し、約款をその文言通りに形式的に適用すると、明らかに社会的妥当性を欠く場合は、別の解釈を採る余地もあると思われます。)。
今回の話は、飲酒運転をした人が事故を起こし、自分が被った損害について、自分の保険会社に請求する場合の話です。いわば、飲酒運転車に対する制裁のようなものです。
飲酒運転車によって被害を受けた被害者に対する補償の話ではありません(そのような場合は、加害者が飲酒していたとしても、被害者保護の必要性は変わらないからです。)。
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交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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