脊柱とは
脊柱は、上から頸椎(C1-7)、胸椎(T1-12)、腰椎(L1-5)、仙椎(S1-5)、尾椎により構成されています。
脊柱は、体を支えると共に(支持機能)、一本の骨ではなく、複数の椎体が可動性を保ちつつ連結していることにより、その運動性も担保されています(運動機能)。
後述のような脊柱の変性が生じると、この支持機能や運動機能が失われることとなります。
脊柱に関する主な後遺障害等級について
変形の程度、運動障害の程度によって、後遺障害等級が定められています。
脊柱に著しい変形を残すもの | 6級5号 |
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脊柱に中程度の変形を残すもの | 8級 |
脊柱に変形を残すもの | 11級7号 |
脊柱に著しい運動障害を残すもの | 6級5号 |
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脊柱に運動障害を残すもの | 8級2号 |
脊柱の後遺障害における等級認定のポイント(外傷に伴う脊柱の変形といえるか)
脊柱の変形を画像によって証明すること(要件①)は、それほど難しいことではありません。問題は要件②、つまり、脊柱の変形が交通事故に伴う新鮮なものか否かという点です。そのポイントをご説明します。
脊柱の変形で最も多いのは、圧迫骨折・破裂骨折に伴うものです。
これらは、脊柱に垂直方向の外力が加わった場合に生じるものです。典型的には、尻餅をついて転倒するような場合が考えられます。交通事故では、自転車に乗っていて転倒した、自動車が横転・一回転した 、というような場合が想定されます。
自動車に乗って停車中に後ろから追突された、というような事故態様では、通常、圧迫骨折・破裂骨折は生じないと思われます。 したがって、圧迫骨折・破裂骨折が疑われる場合には、受傷態様を確認することが重要です。
この圧迫骨折は、日常生活において転倒した際などに生じる可能性があり、しかも、症状が強く現れないこともあるため、気付かないこともあります。特に骨が脆くなっているご高齢者にその傾向は強いようです。
圧迫骨折に伴い脊柱が変形すると、変形された状態で骨は癒合することになるため、元通りの長方形に戻るわけではありません。そうすると、どうしても他の部分に比べ脆弱性が認められるため、何らかの外力を受けた際にその部分に痛み等の症状が再発し易くなるのです。
交通事故の際にそうした脆弱な部分に外力が加わることで痛み等の症状が生じ、レントゲンを撮影したところ、初めて脊柱の変形を発見するというケースが存在します。その場合に問題になるのは、その変形が交通事故によって生じた新鮮なものか、それとも昔から存在した陳旧性のものか、という点 です。
こうした事例は私も複数経験していますが、基本的には、画像を検討すれば、それが新鮮なものか否かは分かると思われます。具体的には、事故直後のレントゲン画像と、しばらく後のレントゲン画像を比較検討すればよく、骨折部分の圧潰が進んでいるような場合には、それが新鮮な骨折だったと考えられるのに対し、圧潰の進行がなく、形状に変化が認められない場合には、古い陳旧性の骨折で、既に骨は変形した状態で癒合していたと考えられます。
私の経験事例の中には、本当は古い骨折なのに、最初は交通事故に伴う骨折だと判断されていたケースが複数存在します。最初のレントゲン画像だけだと判断が難しいのだろうと思います。
ですから、私は、事故態様などから圧迫骨折・破裂骨折の発生に疑問を抱いた場合には、なるべく早い段階で画像を検討し、それが新鮮なものかどうかを検討するようにしています。
労働能力喪失率の認定(等級認定後の話)
無事、11級7号などの等級認定が受けられたとして、次に問題になるのは、労働能力喪失率・喪失期間(評価)です。
脊柱の変形障害があるとしても、それが直ちに労働能力の喪失をもたらすわけではないといわれています。変形があったとしても、目立った症状が出ない場合もあるからです。そのため、仮に11級7号などの後遺障害等級が認定されたとしても、逸失利益の算定において、11級の原則的な労働能力喪失率である20パーセントが認められるとは限らないのです。
私も、圧迫骨折の事案を数多く取り扱って参りましたが、必ずといってよいほど、これが問題となります。そして、裁判例の傾向を見る限り、喪失率表通りの喪失率が認定されるケースはそれほど多くはなく、むしろ、個別具体的な事情に応じ、喪失率を減額するものが多いと思われます。したがって、脊柱の変形の事案においては、ここの主張立証がポイントになってくるのです。
圧迫骨折・破裂骨折後の脊髄損傷(遅発性脊髄損傷)
脊柱の直ぐ近くには脊髄神経が通っているわけですから、圧迫骨折や破裂骨折に伴い脊髄神経が圧迫・損傷され、脊髄症状が生じるケースも存在します。
そして、この遅発性脊髄損傷とは、骨折した直後は脊髄に対する圧迫等は軽微なものであったとしても、その後に椎体の圧潰が徐々に進行し、それに伴い、脊髄への圧迫等が強まり、深刻な脊髄症状を発症するに至るというものです。
自賠責の一般的な考え方は、事故直後に症状が強く現れ、時間と共にそれが軽減していくというもので、そうした経過から外れる症例に関しては、交通事故との相当因果関係を否定的に考える傾向が強いのですが、このような遅発性脊髄損傷の場合には、遅れて発症することが当然のものであるため、それをもって交通事故との相当因果関係が否定されるというものではありません。
横突起等の骨折
横突起や棘突起は、脊柱の支持機能や運動機能に直接影響する部分ではありませんので、そこだけを骨折したとしても、「脊柱の変形」として等級認定はされません。
ただし、骨癒合は得られたとしても痛み等の神経症状を残した場合には、「局部の神経症状」として14級9号が認定される可能性はあります。また、神経症状としての12級の要件に該当する場合には、その可能性も存在します(神経症状12級と14級の区別については、別項参照)。
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交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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