休業損害とは
休業損害とは、症状固定までの間において、交通事故の怪我によって休業を余儀なくされ、それに伴い生じた収入の減少をいいます。
これに対し、症状固定以降に休業しているような場合は、休業損害ではなく、後遺障害に伴う逸失利益という形で補償の対象となり得ます。
具体的な休業損害の算定方法
会社員の場合、会社に休業損害証明書を作成してもらい、それを基に休業損害を算定すればよく、比較的証明しやすいといえます。
社役員の場合、休業損害の対象となり得るのは、役員報酬のうち労働の対価といえる部分に限られます。
労働対価部分については、休業損害が認められる余地があります。
この場合、会社が役員(被害者)の損害を肩代りしているといえます。したがって、会社がその肩代りした分を加害者に請求していくことが考えられます。
これは、会社への間接損害といわれる問題です。つまり、交通事故の影響が、交通事故の直接的な被害者である個人(役員)に止まらず、間接的に会社にも損害を与える場合です。
法律上、個人である役員と法人である会社とは別人であるため、当然に、会社が加害者に対して損害賠償請求できるわけではありません。
しかし、例外的に、個人である役員と会社が「一体」といえるような関係にある場合には、会社も加害者に対し損害賠償請求することが可能となります。
法人とは名ばかりで社長一人でやっている会社などがその典型例です。これに対し、ある程度の規模になってくると、肩代り損害以上の会社の損害について、会社が賠償請求するのは難しくなります。
交通事故によって家事に支障を来した場合、それを金銭的に評価し、休業損害の支払を受けることが可能と考えられています。
女性の平均賃金(学歴計・全年齢平均賃金)を基に休業損害を算定します。
具体的には、
という計算をします。
現実収入の金額と、交通事故の年の平均賃金(女性の学歴計・全年齢平均賃金)を比較し、いずれか高い方を基に休業損害を算定します。
パート収入 150万の兼業主婦の場合
パート収入 150万の兼業主婦の場合
※たとえば、パートを休業し、その休業損害として40万円が発生したとします。これに対し、家事については、パートを休んだことにより、交通事故前とほとんど変わりなくできたとします。そのような場合、家事ができたこともって休業損害の発生はないとするのではなく、40万円を下限としつつ、それに家事ができなかった程度を考慮し、休業損害を算出します。
女性の家事従事者と同じです。ただし、女性の家事従事者に比べ、家事に従事していたことの立証は細かく求められる傾向にあります。
男性家事労働者の休業損害が認められた事例
男性家事労働者の休業損害が認められた事例
実際に家事労働に従事していたのか否かが争点となり、家族構成を示す住民票の他、妻の就労状況等の資料を提出し、夫が家事を行っていたことの証明を行いました。 これに対し、女性の家事労働者の場合は、住民票の提出を求められることはありますが、それ以上の立証を求められる事例は少ないといえます。
交通事故前の申告所得額を基に休業損害を算定します。休業期間中も支出を余儀なくされる固定経費(家賃、従業員給与等)についても、休業損害に含めることが可能です。
以下は一般的な計算式になります。
完全休業の場合
完全休業の場合
事業を継続した場合
事業を継続した場合
給与所得と違い、事業所得は様々な事情によって変動することが多いといえます。そうすると、仮に交通事故後の減収があったとしても、その全てが交通事故によるものといえるのかは、必ずしも明らかとはいえません。 その点に関する立証が、自営業者の休業損害におけるポイントです。
色々な価値観はあると思いますが、適切に納税していたのか否かという問題と、交通事故の損害賠償が認められるのか否かという問題は、一応別だと考えられています。したがって、確定申告をしていなかったとしても、実際に所得が存在したことを証明すれば、休業損害の請求も可能です。
等の方法が考えられます。事案に応じ、工夫していくしかないところだと思われます。 しかし、公的証明書の提出ができないため、立証は容易ではありません。修正申告という方法も、後付けという印象は強いため、交通事故以前からきちんと申告していた場合に比べ信用性は低いといえます。
交通事故のダメージを乗り越え、
前向きな再出発ができるよう
榎木法律事務所は
3つの約束をします。
交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
© 榎木法律事務所 All Rights Reserved.
© 榎木法律事務所 All Rights Reserved.