RSDとカウザルギーとは
RSDとは、尺骨神経等の主要な末梢神経の損傷がなくても、微細な末梢神経の損傷が生じ、外傷部位に灼熱痛、血管運動性症状、発汗異常、軟部組織の栄養状態の異常、骨の変化(ズデック萎縮)などを伴う強度の疼痛が生じるものをいいます。
カウザルギーとは、主要な末梢神経の不全損傷によって生じる同様の症状のことをいいます。違いは、その原因として主要な末梢神経の損傷を伴うものがカウザルギー、伴わないものがRSDという点です。
RSDの特徴
肌が熱くて、ヒリヒリするような感覚 | 灼熱痛 |
何かが軽く肌に触れただけでも痛いという感覚 | 誘発痛(アロディニア) |
皮膚の萎縮(皮膚の乾燥化(カサカサ)/ 硬質化(カチカチ)/光沢化(テカテカ)/ 鱗状化(ザラザラ)/浮腫化(腫れ)/色変化(黒ずみ等)/ 爪の異常変化/皮膚の温度変化 |
皮膚変化 |
特徴として、
・受傷後数週間経過してから発症することが多い
・軽微な外傷でも、強い症状が出る場合がある
・直接受傷した部位以外に症状が出る場合がある
等が挙げられます。
RSD・カウザルギーの後遺障害等級
通常、体の局部に痛み等の神経症状を残した場合には、12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)又は14級9号(局部に神経症状を残すもの)のいずれかの等級が認定されます。 これに対し、RSDやカウザルギーと認定された場合には、その程度に応じ、下記表のとおり、7級、9級、12級という高い等級が認定されます。
軽易な労務以外の労働に差し支える程度の 疼痛があるもの |
7級4号 |
通常の労務に服することはできるが、疼痛により 時には労働に従事することができなくなるため、 就労可能な職種の範囲が相当に制限されるもの |
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、時には 労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの |
12級13号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの | 12級13号 |
局部に神経症状を残すもの | 14級9号 |
RSD・カウザルギーの後遺障害認定基準(フローチャート)
主要な末梢神経損傷を伴う場合には、痛み等の原因は明らかといえるため、後は、具体的な症状に応じ、7~12級のいずれを認定するかの検討が行われます。
これに対し、主要な抹消神経損傷を伴わないRSDの場合には、痛み等の原因が明らかとはいえないため、一定の要件を満たすか否かを検討することになります(RSD要件該当性の問題)。
そして、それを充足する場合には、痛み等の存在が他覚的にも証明されていると考え、後は、具体的な症状に応じ、7~12級のいずれを認定するかの検討が行われます。要するに、痛み等の他覚的証明が十分といえるかという入口の要件をクリアすれば、次に等級評価という中身の問題に入っていくという流れです。
RSD要件該当性が否定される場合には、打撲・捻挫後その部分に痛みを残したような場合と同じく、通常の神経症状としての後遺障害等級該当性が問題となってきます。
自賠責におけるRSDの要件(中身の検討に入る前の入口要件)
各要件における立証上のポイント
関節拘縮 | 関節の可動域検査をすることにより立証します。 |
骨萎縮 | 骨萎縮(骨が痩せてしまっている)は、レントゲンによって証明します。 この場合、正常な側との比較が重要であるため、左右のレントゲン撮影を行うようにします。 |
皮膚変化 | 後遺障害診断書に皮膚の状態を記載してもらうと共に、実際の皮膚の状態を写真撮影し、提出します。 サーモグラフィー検査も有効。しかし、現実問題として実施可能な医療機関は限られているため、難しいかもしれませんし、必須の検査ではありません。 |
これらの症状が健側(正常な側)と 比較して明らかに認められる |
左右両方の可動域検査、レントゲン撮影、写真撮影等を行い、左右差を証明することにより立証します。 |
その他、重症度の評価も見据えた立証活動の詳細は後述します。
これらの4要件(関節拘縮、骨萎縮、皮膚変化、それらが健側と比較して明らかに認められる)を満たせば、RSDとしての後遺障害等級認定の対象とされ(入口要件クリア)、次に、7~12級の中の何級を認定するのかという評価の問題に入っていきます(重症度の検討)。
そして、7、9、12級のいずれを認定するのかの判断は、後述のとおり、総合考慮となります。
そのため、上記要件の立証だけに止まらず、等級判断の際にプラスに働く材料もきちんと収集し、提出しておくべきです。
その際には、自賠責書式のRSD用の診断書が有効です(「RSDの所見について」)。
そこに記載されている検査については、可能な限り実施してもらい、提出する方が望ましいと思います。
また、症状の具体的な内容も記載してもらう方がよいでしょう。
その他にも、等級判断に納得できない場合には、追加資料を工夫する価値はあると思われますので、ご相談ください(私も、普段の業務においては、色々と工夫しているところです)。
具体的な等級認定基準(7,9,12のいずれを認定するか)
上記の表を見ていただければ分かるように、7、9、12級の区別は、非常にあいまいです。具体的に、今のあなたの状態が何等級に該当するのかは、そこからは全く明らかとはいえません。
具体的な認定基準は公表されていないため、正確なところは分かりません。
しかし、これまでの認定事例を分析検討することを通じ、一定の基準は見えてきます。
神経症状の内容・範囲 | 神経症状の範囲が限局的か、広範囲か、その内容(痛みの性状等) |
関節拘縮の程度・範囲 | 硬直に近い拘縮か、関節拘縮の生じている関節は1か所か2ヵ所か |
骨萎縮の程度・範囲 | 骨萎縮の程度は軽度か重度か、骨萎縮の範囲は広範囲か |
その他の検査結果(筋萎縮の有無/筋力低下の有無/サーモグラフィー検査結果/神経伝導速度検査結果/発汗テストなどの検査結果)についても異常が出ているなら、提出してもよいかもしれません。
日常生活上の支障を撮影した動画の提出も意味はあるかもしれません。
いずれにしても、 7、9、12級のどれを認定するかの区別は非常にあいまいな部分があり、担当者の裁量も大きい ように思われます。
大まかな認定基準は、これまでの事例の分析検討を通じて把握していますので、可能性が少しでもありそうなら、使えそうな証拠を集め、積極的に異議申立てを考えてみてもよいというのが、今の私の基本方針です。
自賠責のRSD要件を満たさない場合でも
12級13号への該当可能性はあります
RSDの入口要件を満たさない場合には、自賠責では、RSDとして後遺障害等級認定を受けるのは困難です。
その場合は、通常の神経症状と同じく、多くは14級9号の認定に止まるものと思われます。
しかし、たとえば、関節拘縮は認められないものの、骨萎縮は認められるような場合には、その骨萎縮の存在が疼痛の他覚的証明になり得るとして、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)の認定可能性は存在するようにも思います。(「その他の神経症状」をご覧ください)。
私は、そのような事例を直接的には経験していませんが、可能性はあるだろうと考えているところです。
また、自賠責でRSDとしての後遺障害認定は難しいとしても、裁判所による救済を求めるという選択肢も考えられます。
この裁判例では、非常に参考になる意見が述べられています。
すなわち、あくまでRSDとして認定するためには、自賠責の定める要件が必要だとしても、いわゆる他覚的所見を伴う「頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)には該当する、と判断しています。
これは、先ほどの私が述べたアプローチと同じです。
したがって、仮に自賠責の定めるRSDの要件には合致しないとしても、それをもって当然に14級9号や非該当に止まるという話ではなく、12級13号に相当すると主張し、戦っていく方法もあり得ると考えています。
専門医への受診について
RSDは、そのメカニズムが完全に解明されているものではなく、非常に難しい傷病です。 また、目に見えにくい傷病であるため、その立証に必要な検査も多岐にわたります。
したがって、基本的には、専門医への受診が望ましいといえます。
また、現在通院中の整形外科がRSDに詳しくないような場合には、ペインクリニックに通院するという選択肢もあり得ると思います(もちろん、個人差はあると思いますが、ペインクリニックの方がRSDに詳しく理解もあるという意見を聞いたことがあります)。
交通事故のダメージを乗り越え、
前向きな再出発ができるよう
榎木法律事務所は
3つの約束をします。
交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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