物的損害とは
車が破損したり、手持ち品が壊れたりした場合の損害を、体の怪我と区別して、物的損害と呼んでいます。
物的損害が発生した場合にまず必要なことは、その壊れた状況を保存することです。具体的には、加害者側(保険会社)に確認してもらい、写真撮影を行う等の対応をします。その上で、損害額の算定・交渉を行います。
代車費用(レンタカー代)について
交通事故により車が破損すると、修理が必要になります。そして、その修理期間中は車を使うことができなくなるため、多くの場合は代車(レンタカー)を手配します。
よく問題になるのは代車使用期間です。つまり、いつまでの代車費用を払ってもらえるのか、ということです。
「当然、修理が終わるまで払ってもらえるだろう」と思われるかもしれません。確かに通常はそのとおりなのですが、そうならない場合もあるため、注意が必要です。
無用なトラブルを回避し、満足のいく補償を得るためのポイントは、なるべく早く修理の手続を進め、代車を返却してしまうことです。
法律上、補償の対象となる代車使用期間は、修理や買替えに必要となった期間のうち、相当と考えられる期間に限定されると解されています。要するに、被害者側の事情で修理に着手できず、代車使用期間が不相当に長くなった場合には、その不相当な部分は補償されないというわけです。
たとえば、修理内容や過失割合について被害者側と加害者側(保険会社)で意見が対立し、修理等に着手できないまま時間が経過し、代車使用期間が長期化してしまうような場合です。
そのような場合には、代車使用期間の長期化について被害者側にも落ち度があるとして、加害者側(保険会社)が長期化した代車使用期間中の代車費用の支払を拒んでくることがあります。裁判所も、被害者側にも損害を軽減させる義務があるとして、長期化した分の代車費用を被害者に負担させる場合があります。
しかしながら、これは被害者側にとって酷な考え方といえます。保険会社側は、こうした物損処理のプロであるのに対し、被害者側は通常は素人です。したがって、決して対等な立場ではなく、被害者側に過度な損害軽減義務を要求するのは無理があるといえるからです。ですから、プロである保険会社側が十分な努力をしているか否かに重きを置くべきであり、保険会社側がそれを怠っているような場合には、被害者側の損害軽減義務を過度に重視すべきではないように思います。
修理費用について
必要かつ相当な修理費用の請求が認められます。
修理費用について紛争になるケースは必ずしも多くはありません。しかし、損傷の事故起因性(事故による傷なのか、それとも事故前からの傷なのか)などが争われることもあります。交通事故から時間が経てば経つほど、そうした問題は生じ易いため、 なるべく早めの対応(写真撮影するなどして現状を保存しておくこと)が重要です。
また、これも珍しいケースですが、一旦は修理が完了したものの、修理工場の修理内容が不十分で不具合があったというような場合も存在します。ですから、車両を受け取る場合には、きちんと修理されているのかどうかをよく確認し、もし問題があれば、早めに指摘すること が大切です。
買替差額と買替諸費用について
事故車両が物理的又は経済的に修理不能の場合には、買替差額と買替諸費用の賠償を求めることが可能です。
物理的又は経済的に修理不能 ⇒ 買替差額及び買替諸費用の請求
「物理的な修理不能」は理解し易いと思いますが、「経済的に修理不能」とは何かというと、それは、修理という選択肢に経済的合理性が認められない場合を意味します。つまり、修理費用が事故車両の買替えに要する費用を上回る場合には、修理するよりも同等の車両を買い替えた方が経済的にも合理的であるため、買替えに要する費用の範囲でしか補償が受けられないと考えられているのです(これを、「経済的全損」と呼んでいます)。
■ 買替差額=交通事故当時の車両価格-売却代金(スクラップ代)
買替差額とは、交通事故当時(事故直前)の車両価格から、交通事故によって破損した車両の売却代金(いわゆる鉄屑代)を差し引いた金額のことで、被害者は加害者に対し、その賠償を求めることができます。
交通事故前の車両価格は、レッドブック、シルバーブック、インターネット上の中古車販売情報などを参考にして算定します。
車両の買替えをする場合には、車両本体価格だけではなく、様々な費用が必要になります。たとえば、自動車取得税、消費税、検査・登録法定費用、車庫証明法定費用などが認められるとされています。
保険会社は、買替差額の支払にはスムーズに応じますが、買替諸費用の支払には消極的です。したがって、買替諸費用の賠償を求めるのであれは、こちら側から積極的にその額を立証していく必要があります。
どのように算定するかというと、通常は、実際の車両買替え時の諸費用から算出することが多いと思います。それが難しい場合には、インターネット上の中古車販売情報を閲覧し、同等の車両を購入した際にかかる諸費用の額を参考に算出します。
評価損について
交通事故で破損した車両を修理しても、
①機能や外観に欠陥が残存する
又は
②機能や外観に欠陥がないとしても、事故歴があることに伴い、中古車市場において価格が低下する
といったことがあります。それを評価損(格落ち損害)といいます。より細分化していうと、前者を機能上の評価損、後者を取引上の評価損といいます。
■ 機能上の評価損
機能や外観に欠陥を残す場合については、評価損は認められやすいといえます。ただし、現在は修理技術も向上し、機能や外観に欠陥を残す場合は、それほど多くないと思います。
■ 取引上の評価損
実務的によく問題になるのは、機能や外観に明らかな欠陥はないものの、事故歴があることに伴い発生する取引上の評価損です。
具体的な立証方法として私がよく利用するのは、日本自動車査定協会で査定をしてもらい、事故減価額証明書の発行を受け、それを基に加害者側(保険会社)と交渉するというものです。
査定費用は必要ですが、その手間等に比べ高価なものではありません。日本自動車査定協会は、公正中立の第三者機関であり、そこが発行する事故減価額証明書は信頼に足るものだと思いますが、裁判実務上はそこまでの信頼性は置かれていないのが実情です。
日本自動車査定協会は査定時点を基準に評価損の有無を判断しています。
これに対し裁判所は、それだけではなく、どの段階で評価損が現実化するのかといった観点等も取り込んだ上で判断していると思われます。つまり、しばらく車両を売却する予定がないのであれば、たとえ評価損が発生していたとしてもそれは現実化しない、という考えがあるのだろうと思います。
しかし、たとえ現実化する可能性は低いとしても、抽象的には減価が生じているわけですから、被害者側にとっては厳しい判断だという印象を持ってしまうところです。
評価損の問題を巡っては、誰が評価損の損害賠償請求権を持つのかという問題が存在します。これは、ローンで車を購入し、所有権留保が付いている場合に問題となります。
ローンで車を購入し、車検証上の所有者はローン会社であったとしても、それは担保目的に過ぎませんから、買主としては、自分の物だと思っているわけです。特にローンの支払を延滞することなく真面目に払っている多くの買主からすると、より自分の物だといいたいと思います。
そのような場合に、評価損の損害賠償請求権は、買主が取得するのか、それともローン会社が取得するのか、という問題が生じてきます。
買主に権利の帰属を認めた裁判例もあるのですが、しかしながら、多くの裁判例は法律上の所有権を持っているローン会社への帰属を認めます。
対処法
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交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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