私は、これまで、縁あって、小さなお子様の事例を多く取り扱ってまいりました。
ずっと以前、あるお客様がおっしゃった、「親として、子供のためにできる限りのことはしてやりたい」という言葉が、今でも頭の中に残っています。今は私も、子を持つ親として、その言葉の意味を痛いほど分かるような気がします。そうした心情的なことに加え、法律的にも、小さなお子様が交通事故に遭われた場合、まだ成長段階にあること等の事情から、大人とは異なった様々な配慮が必要になってきます。
お子様のため、そして、あなた自身も後悔しないため、できることを一緒に考えていきたいと思っています。
成長期であるため、将来予測が難しい
成長期にあるお子様の場合、これからの体や心の成長に伴い症状が変化していく可能性が考えられます。
分かり易い例を挙げると、体の傷跡は体の成長に伴い大きくなっていく可能性があります。傷跡の後遺障害は、そのサイズによって等級が変わります。1センチメートルの差によっても後遺障害等級は変わります。そうすると、どのタイミングで治療を終了し、後遺障害認定を受けるのがよいかも検討しなければなりません。
残念ながら、自賠責は、将来の成長可能性を見込んで後遺障害等級認定をしてくれるわけではありません。
子供の骨は日々成長しています。珍しいケースだとは思いますが、骨折に伴い、骨折した骨の成長障害(成長が阻害される)又はその逆の過成長(成長し過ぎる)というような場合も存在します。そのような場合、 大人の骨折事案とは異なった配慮が必要にはなってきます。
乳幼児の場合には、体の不調を自分で的確に伝えられているのかという問題もあります。ですから、特に問題が無いように見えたとしても、しばらくは経過を観察する方が安心だといえます。実際に多くの方がそのようにされていると思います。
特に深刻な問題になる点としては、頭部を受傷し、脳に損傷を負い、「高次脳機能障害」(脳の器質的な損傷によって、人格変化などを伴う精神症状が生じる場合)の疑いがある場合です。
未就学児童の場合には、他人と接触する機会が少ないため、対人関係の問題や性格変化を発見しづらく、見落されてしまう可能性があるのです。また、既に就学している場合であったとしても、大人が会社で働く場合とは異なり、自ら望まない対人関係を回避し易い学校生活においては、そうした微妙な変化は見落されてしまう可能性は否定し切れません。そのため、 頭部を受傷し、高次脳機能障害の疑いが残る場合には、症状固定や示談のタイミングを慎重に判断する必要があると思います。
乳幼児・高次脳機能障害の特殊性を考慮した事例
(東京地裁平成26年4月14日判決・判例時報2233号)
脳のダメージ又は心のダメージに伴い、集中力低下・人格変化などの精神症状が生じているとしても、大人と違い、それを交通事故前後で比較することは簡単ではありません。 乳幼児の場合は、比較の対象となる元々の状態を正確に把握することが難しいため、特にそうだと思います。個々のお子様の状態に応じベストな対策を考えていくしかないとは思いますが、やはり、早期の症状発見と専門医受診は有効な方法 だと思います。違和感があれば、それを医師に伝え、カルテに残してもらうといった配慮をしてください。
お子様特有の損害について
特に小さなお子様の場合、親がサポートしてあげないといけない場面が沢山出てくると思います。その代表的な場合が、 通院への付添いです。乳児は勿論、幼児に関しても、親が通院に付き添うのは当然のことだと思いますので、その付添費用も損害として請求することが可能です。 裁判基準ですと、一日につき3300円が目安とされていますが、事情により増減します。
親も同じ交通事故で受傷し、お子様と一緒に通院する場合の付添費用
お子様には、様々なイベント(課題)が存在します。私達大人からすると、随分と懐かしい話ですが、定期試験、入学試験、必要出席日数、単位の取得、卒業試験、資格試験などです。皆それぞれが望む結果に向けて全力で努力するわけです。だからこそ、そこに交通事故という邪魔者が介入してくると、許せないという感情を抱いてしまうと思います。
交通事故に伴い何らかの支障が出た場合、できる限り元通りに近い状態にしてあげたいという気持ちは、親として当然のことだと思います。たとえば、学校を休み学習が遅れ、それを取り戻すための家庭教師費用なども妥当な範囲で認められる余地 があります。その他にも、無駄になった授業料等の請求も認められています。
お子様の逸失利益の算定
分かり易くいうと、
①交通事故がなければ得られたであろう将来の所得 と
②交通事故に伴う後遺障害が残存したことを前提として得られるであろう将来の所得
との差額が逸失利益です。
分かり易くするため、まずは、既に就労している方の場合の過失利益の算定方法をご説明します。
既に就労している方の場合の逸失利益の算定方法
お子様の場合には、そもそも「事故前年の年収」を観念することができません。そのため、一般的には、平均賃金を基準に算出 します。
しかし、平均賃金といっても、それは大卒、高卒などの学歴によっても異なります。そうすると、お子様が将来、どういう学歴を辿って行くのかが問題となるわけです。具体的には、
親の学歴・意向、兄弟の大学進学の有無、家庭の経済状況、お子様の現在の成績などから、それを予測していくことになります。高校生くらいになれば、学校や塾の成績、お子様の意向などから、立証はそれほど難しくないと思います。これに対し、お子様が小さいほど、判断は難しくはなってきます。
■ 問題の所在
お子様の心と体は成長していきますので、それに伴い症状が変化する可能性もあります。そうすると、数年、場合によっては10年以上様子を見るというケースも想定されるところです。
このように、お子様の交通事故の場合には、治療期間が長期化することは、仕方のないことだといえます。しかし、それに伴い、逸失利益算定の場面では大きな争点が生じてきます。
■ 中間利息控除の起算点という争点
逸失利益の算定の際には、中間利息控除が行われます。
逸失利益とは、前述のとおり、将来の労働能力喪失分に対する補償です。換言すると、逸失利益とは、本来は長い将来に亘って稼ぐ予定だったお金を、今前倒しで先にもらうものといえます。そして、 前倒しでもらえば理屈上はそれを運用することができますので、あらかじめ運用利益相当分を控除し、支払われることになります。そうした運用利益分の控除のことを中間利息控除といい、その際に用いられている係数のことをライプニッツ係数といいます(5年であれば4.3295、10年であれば7.7217という具合に減額率が定められています)。
この中間利息控除をどの時点から行うのかという問題があり、一般的には、症状固定時から行うという取扱いがされています。中間利息控除の起算点が早くなればなるほど、沢山の控除がされることになるため、被害者には不利な計算になります(結構な差が出てきます)。
そして、交通事故から症状固定までの期間が長い場合には、保険会社から、中間利息控除の起算点を症状固定時ではなく、交通事故時とすべきであるなどと主張されることがありますし、実際に症状固定時とした裁判例も存在します。交通事故時から中間利息控除されると、被害者としては随分と不利な計算になってしまいます。
しかしながら、小さなお子様の場合に、成長に伴う変化を確認するため、症状固定までに時間がかかってしまうことは、仕方のないことだと思いますから、中間利息控除の起算点は症状固定時を基本とすべきだと考えています(ただし、この争点に関しては、様々な立場があり、今後の動向に注意する必要があるところです)。
交通事故のダメージを乗り越え、
前向きな再出発ができるよう
榎木法律事務所は
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交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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