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2021.05.10

近親者固有の慰謝料請求権の消滅時効(民法改正も踏まえて)

近親者固有の慰謝料とは

典型的には、交通事故の直接的な被害者が死亡した場合に、近親者(遺族)固有の慰謝料が生じると考えられています。

日本では、死亡事故が生じた場合には、亡くなられた方の下で全ての損害が発生し、それが相続によって遺族に承継されると考えるのが基本です(相続構成)。

これに対し、諸外国においては、ある人の死亡に伴って現実的に損害を被るのは遺族であることに着目し、遺族に損害が発生するものと考える国も珍しくありません(扶養構成)。すなわち、亡くなられた方によって実際に扶養されていた方は、扶養利益の喪失という損害を被りますので、そのような現実の損害に着目していく考え方です。また、イギリスでは、扶養利益の喪失だけではなく、遺族の死別に伴う損害(=慰謝料)も認めています。

上記のように、日本では亡くなられた方に着目し、その方に発生した損害を算定する手法を基本としていますから、本来的には、遺族(近親者)固有の慰謝料というのは、例外的なものと位置付けられます。これに対し、最初から遺族の損害に着目し、扶養構成を基本とする国であれば、遺族の慰謝料というのは、当然のものと位置づけられるように思います。

いずれにせよ、直接的な被害者以外にも、近親者に固有の慰謝料が認められる余地があります。そして、このような近親者慰謝料は、法律の条文上は死亡事故を本来的に想定したものではありましたが、現在は、判例法理を通じて、重度後遺障害事案にも拡張されています。

消滅時効との関係で気になるのは、この重度後遺障害事案の場合です。

消滅時効の問題

改正民法の下では、「生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」の消滅時効は、5年とされています。それに該当しない場合には、3年となります。

私の疑問は、重度後遺障害事案において近親者の固有慰謝料の請求が可能となる場合に、①その消滅時効の起算点がいつなのか、②時効期間は3年か5年か、という点です。

死亡事故の場合の近親者固有慰謝料については、通常、死亡日から起算されることになると思います。

これに対し、重度後遺障害事案の場合には、事故時から起算されるのか、症状固定日から起算されるのか。この点は、裁判例や文献をみても、必ずしも明らかではないように思います。

また、近親者は、直接的に身体に人身傷害を被ったわけではなく、慰謝料の根拠は「精神的なショックを受けた」という点にあります。そうすると、「生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」と言えるのか否かが、明らかではありません。もちろん、近親者が、精神的なショックを受け、うつ病等の精神障害を発症するに至った場合には、「身体を害する不法行為による損害賠償請求権」といい得ると思いますが、そうではない場合には、明らかではありません。

この点に関しては、改正民法の注釈書等をみると、同一の不法行為によって人損と物損の両方を被った場合には、物損部分に関しても「生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権」に含めて考える解釈が示されています(反対意見もあるようですが)。この記述は、同一人に発生した人損と物損を問題としているように思われますので、それと同様の発想が、直接的な被害者と間接的な被害者(近親者)が存在する場合において、間接的な被害者の請求にまで拡張され得るのかは、明らかではありません。

あくまで私個人の意見に過ぎませんが、重度後遺障害事案における近親者固有の慰謝料請求権も、後遺障害の程度が明らかになった段階で損害の内容が確定するように思われますので、直接的な被害者の症状固定日から起算されると解すべきではないかと思います。

また、消滅時効期間に関しては、近親者固有の慰謝料請求が直接被害者の人身傷害に起因するものであることに加え、直接被害者の請求権と近親者の請求権を別々に行使することは珍しく、実際には一緒に請求・交渉・解決されている実情が存在すること等から、近親者固有の慰謝料請求権も、「生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」として消滅時効期間を5年と解すべきではないかと思います。

債権管理(個人的な意見)

以上、私の意見を記載しましたが、今後の解釈論がどのように発展していくかは不透明な部分がありますので、当面は、事故日から3年で時効になるリスクを想定し、債権管理をしておくのが無難かもしれません。

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交通事故問題の将来

愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。 ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。 これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。

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