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2019.10.19

自動運転の社会的受容性

自動運転には様々な課題があり、産学官連携して、様々な分野の専門家達が研究を積み重ねている。

私のような弁護士の立場からすると、関心は、自動運転における保険の問題、賠償責任を誰が負担するのか、刑事責任はどうなるのか、といった点にまずは関心がいく。

しかし、他の分野に目を向けると、勿論技術的な問題もあるし、さらに社会的受容性をどのように高めていくのかという問題もある。

例えば、自動運転は、当然ながら制限速度等の法的規制を遵守するため、今の実情を前提とする限り、そのような車が登場すると、円滑な交通の妨げになるとすら感じる人もいるだろう。

また、全体的には交通事故の発生件数自体は大幅に減少するとしても、その中には、人であれば起こさなかったはずの、機械であるが故の事故が生じる可能性もある(かもしれない)。自動運転によって全体的な傾向として交通事故被害は減少しても、自動運転固有の新たなリスクが生じた場合に、果たして人はそれを受容し得るのか(人が不注意によって交通事故を起こした場合と異なり、機械のエラーによる事故に対して社会はそれほど寛容ではないかもしれない)。

自動運転の導入や普及に際しては、このような観点からの検討も行われているようである。

ところで、自動運転機能又はそれに準じる安全機能が普及していくに伴い、交通事故発生リスクの低い自動車を選択できる機会が格段に広がる。実際、現時点でも自動ブレーキの設置を義務付ける動きがある。元々、自動車は、危険ではあるが社会的に必要不可欠なものであることから、社会的にも受容されてきた側面があるように思われるが、今後、安全性能の高い(事故発生リスクの低い)自動車を選択し得る機会が格段に高まると、事故発生リスクの高い自動車とそれによる事故への社会的受容性は、徐々に低下していく可能性もあるのではないか。そして、そのような社会的受容性の変化に伴い、これまでの刑事処分(一般的な交通事故事件における刑事処分は、個人的には、それほど厳しいものではないと感じている)にどのような影響を与えるだろうか。

 

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弁護士 榎木貴之

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交通事故問題の将来

愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。 ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。 これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。

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