2021.11.24
本年、東京地裁の民事第27部(交通部)から、交通事故の審理に用いるモデル書式が公表されました。
民事第27部(交通部) | 裁判所 (courts.go.jp)
これは、事案の概要や損害額一覧表といった一覧性のあるエクセルシートを用いて審理を進めていくという手法です。
原告と被告の両方が同一のシートを用い、その中に事実関係や損害額に関する双方の主張を記載していくことで、争点が明確化され、充実した争点整理が可能になるというものです。
名古屋地裁(本庁)の民事第3部(交通部)でも、東京地裁と概ね同様の運用が採用されています。
弊所では、今後、訴訟提起をする際には、このモデル書式を積極的に用いていく予定です。さらに現在では、訴訟提起前の示談交渉段階でも、このモデル書式を用いた損害額一覧表を相手方に送付し、交渉を行うようにしています。
従前の訴状では文書で説明していた事柄が簡潔な一覧表に整理されることになるため、一見すると、なんだか物足りないような印象を持たれるかもしれません。特に、結果が重大な事故の場合には、そのような定型化された訴状等に対し、違和感を覚える被害者の方もいらっしゃるかもしれません。この点は、弁護士の中でも、賛否が分かれるだろうと思います。
しかし、このようなモデル書式が作成されるに至った基本的な発想としては、一覧性の高い書式を用いることで、裁判において充実した争点整理を行うという点にあります。この書式を用いることによって、早い段階から争点が明確化され、より充実した争点整理が行われやすくなると思います。そのことは、結果的には、依頼者様の利益にもつながることだと考えています。
弊所では、上記のような考えから、当該モデル書式をなるべく使用するスタンスを採用しておりますので、ご理解の程宜しくお願い申し上げます。
この一覧表等を用いた裁判では、マイクロソフトのTeamsにアップロードする手法を併用することで情報の共有が行われています。それによって訴訟関係者全員が当該データにアクセスでき、同一のシートの中に双方の主張を入力していくことが可能となります。
このような一覧表を用いた審理は便利なものですが、まだ一部の裁判所で導入されているに過ぎません。また、裁判ではない紛争解決手段(示談交渉やADR)では、この一覧表は使用されていません。
交通事故は、示談交渉を経た上で、訴訟提起やADRといった手続に進んでいきます。これらの手続は事実上は連続性を持っているわけですが、それらの手続間での書式の統一化が行われる目途は一切立っておりません。しかし、これは個人的な意見ですが、示談交渉やADRの場面でも、今回公表されたような一覧表を参考に、書式を改訂していく方向性は有益ではないかと思います。
イギリスでは、Claims Portalというポータルサイトがあり、そこにアクセスし、事故当事者が所定の書式を用いて損害額一覧表等を交換していくという手法が用いられています。これは訴訟提起前の示談交渉段階から利用するもので、その後の訴訟やADRとも連続性が確保されています。これは極端な例ですが、参考になるものではあります。
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交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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