2020.05.13
交通事故によって受傷し、通院しているものの、コロナウイルスへの感染が心配で、通院しにくいという状況が存在します。
骨折の事案で、1、2か月に1回の頻度で通院すればよいという事案であれば、大きな影響はありません。
問題は、頚椎捻挫(むちうち)や腰椎捻挫といった事案の場合です。
このような事案の場合、週2~3回程度のリハビリを受けるのが通常だろうと思います。第1の問題は、そのようなリハビリが十分に受けられなくなるという点です。
第2の問題は、賠償請求との関係で、器質的損傷があることの明らかな骨折等の事案に比べると、一般的に、通院の中断に伴う不利益が生じやすい傾向がある点です。すなわち、頚椎捻挫(むちうち)や腰椎捻挫のような事案では、損傷の有無が画像など客観的資料から必ずしも明らかではありません。そうすると、治療が必要か否か、症状が重いのか否かを判断する際には、どうしても、通院の頻度や継続性といった事情を重視する必要が生じてきます(もちろんこれは、あくまで保険会社や裁判所といった第三者的な観点から見た場合の理由に過ぎませんが。)。これに対し、骨折のように損傷が客観的に明らかな場合には、通院の頻度や継続性といった事情への重要性は、相対的には低くなります。
頸椎捻挫(むちうち)や腰椎捻挫の場合には、このような問題が存在するため、一般的には、通院を中断したり、通院回数が減ったりすると、「よくなった」「症状が軽い」といった評価に結び付きやすいのです。その結果、治療費の支払が打ち切られたり、後遺障害等級が認定されにくくなったりする傾向が存在します。
コロナウイルスへの感染リスクを考慮し、通院回数を減らしたり、通院を中断したりした場合、その点がどのくらい影響するのか。その点については、現時点では、正直なところ、判然としません。もちろん、後遺障害等級認定を行う側も、今回の特殊事情に対する一定の配慮を行い、通院の中断や回数の減少を、それほど重視しないかもしれません。しかし、どうなるかはまだ分かりません。
そこで、現時点で思いつく対策として、いくつか挙げてみます。
①相手保険会社に対し、できれば文書で、「コロナウイルスへの感染リスクを考え、通院を最小限度にする」旨を伝えておく。
これは、後の段階で、通院回数が減った理由を説明できるように証拠作りをしておくという側面があります。したがって、医師に同じような話をし、カルテに記録しておいてもらう方法でも良いかもしれません。ただし、②記載のとおり、週2回位の通院が維持できるのであれば、ここまでする必要性は乏しいように思っています。
②(週4-5回通院されていた方であれば)若干頻度を減らし、週2回くらいの通院にしておく
あくまで個人的な見解ですが、多くの場合、週2回の通院ペースであれば、少な過ぎるという評価にはなりにくいと思っています。
③接骨院と整形外科を併用されている方で、「接骨院の方が待ち時間が少ない」といった事情があれば、しばらくは接骨院の方を主に利用する方法も悪くないと思います。ただ、整形外科への通院も、ある程度は継続すべきだと思います。
いずれにしても、現時点では正解のない問題だと思います。
1つの意見として、参考にしてみてください。
交通事故のダメージを乗り越え、
前向きな再出発ができるよう
榎木法律事務所は
3つの約束をします。
交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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