2018.09.18
自動車保険は、強制保険部分に関しても、自ら契約を締結することによって成立する。その点は、日本でもイギリスでも同じである。言い換えると、故意又は不注意によって強制加入の自動車保険契約が締結されておらず、強制保険未加入(無保険)の状態になってしまう場合が、日本においても、イギリスにおいても、生じてしまうことは避けがたい(もちろん、そのような強制保険未加入車が生じないような工夫を両国とも講じてはいるのだが。)。つまり、加害者が無保険車の場合である。
また、加害者が逃走する等して行方不明であって、強制保険加入の有無が不明な場合も、加害者加入の賠償責任保険が利用できないという点では、似たような状況である。
そのような場合に被害者を救済する制度として、イギリスではMIBという機関が存在し、被害者への補償を行っている。MIBは強制保険の代わりとなる補償を提供するものであるが、そもそもイギリスでは強制保険として対人賠償無制限・対物賠償120万ポンドが要求されており、その部分をMIBが補償することとなるため、被害者は相当に手厚い補償を受けられることとなる。
これに対し、日本にも、無保険やひき逃げの場合で自賠責保険が使用できない場合の制度として、政府保障事業が存在する。これは自賠責保険の代わりに被害者に対する補償を提供するものであるが、しかし、自賠責保険との相違も少なからず存在する。例えば、実際の補償を受けられるまでに相当な期間がかかること、詳細な立証資料が要求され手間がかかること、健康保険等から給付される金額は控除されること等の点において、自賠責保険からの通常の補償に比べ、被害者には幾分厳しいものとなっている。確かに、政府保証事業の制度は、あくまでセイフティー・ネットとしての補完的・第2次的な被害者救済制度であるから、補償内容も最低限度のものとならざるを得ないことは、理解できなくはない。しかし、そもそも自賠責保険の保険金額自体が被害者救済の観点からすると、必ずしも十分とはいえないことも踏まえると、それよりも厳しい取扱いをすることには違和感も覚える。
結局、このような場合においても、現在の日本の制度を前提とする限り、被害者は自らの任意保険の補償内容を手厚くしておくことで自衛することが重要と思われる。
交通事故のダメージを乗り越え、
前向きな再出発ができるよう
榎木法律事務所は
3つの約束をします。
交通事故問題の将来
愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。
ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。
これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。
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