2019.01.15
興味深い裁判例が出た。
交通事故の被害者は、自賠責保険に対する直接請求権を有している。交通事故が労災事故で労災保険給付を受けた場合には、政府(労災保険側)は、その給付した価額の限度で、被害者の直接請求権を代位して行使することが可能となる。
この場合、被害者に残された請求権と、政府が代位取得した請求権が併存することとなり、自賠責保険に対する請求が競合し得る。その場合の調整(優先順位)が問題となる。
最高裁は、被害者の請求が優先するとの判断を示した。健康保険に関する類似の裁判例も存在したことから、この点は、ある程度、予測のできる判断ではあった。
さらにこの判例は、自賠責保険に対する直接請求権の遅延損害金の起算点についての判断も示している。判決確定から遅延損害金の発生を認めた東京高裁(原審)の判断を覆し、個別具体的な事情を考慮して判断するとの結論を示している。時期が一義的に分かり易い原審の判断に比べ、最高裁の見解では個別的な認定が必要となる。
自賠責保険に関しては、周知のとおり、一定の支払基準が存在し、判決等が無い限り、原則的にはその支払基準に従った支払がなされるに過ぎない。そのことを前提として、判決確定前に遅延損害金の発生を認めるのはどのような場合なのだろうか。今後の裁判例を見守りたい。
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