2021.09.29
弁護士費用特約(LAC協定保険会社の場合)では、主に物損など少額の賠償事案を対象に、タイムチャージ方式での弁護士費用算定が認められている。
タイムチャージ方式を用いる場合、上限は30時間(総額60万円)と設定され、それを超える支払には、約款上、保険会社の個別同意が必要となる。
そもそも、弁護士費用特約では、着手・報酬金方式という一般的方法であれ、タイムチャージ方式であれ、保険会社の同意を得て支出した弁護士費用が支払の対象とされている。
したがって、弁護士費用特約を使用して弁護士に依頼するという着手段階での同意があることを前提に、タイムチャージ方式を用いる場合には、さらに30時間を超える段階での同意も必要となる。
問題は、かかる同意をどのような場合には与え、どのような場合には拒否することができるのかという基準である。
前者の同意(着手時点の同意)に関しては、複数の裁判例等でも検討がなされており、一般的には、裁量の逸脱・濫用は許されないという解釈が有力である(文献では、LAC研究会「権利保護保険のすべて」28頁以下など)。
すなわち、不同意が裁量の逸脱・濫用といえれば、同意がなくても、保険金は支払われるのである。ただし、実務上、保険会社が同意を拒否することは珍しく、かなり特殊な状況下で同意が拒否されているに過ぎない(一概にはいえないが、例えば、自賠責保険で受傷が否認された場合において、人的損害の賠償請求につき弁護士委任をする場合には、同意が拒否されるおそれもある)。
では、後者の同意(30時間を超える場合の同意)も、それと同様の解釈になるのであろうか。
この点は、先ほどの問題とは異なり、十分に議論はされていないように思われるが、先ほどの話と区別する合理的理由はないと思われるから、私見ではあるが、この点も裁量の逸脱・濫用という観点から考えていくのが妥当だと考える。
ただし、30時間を超えた部分についての同意拒否が裁量の逸脱・濫用になるか否かを巡っては、保険者の裁量が比較的広く認められるだろうと思う。そもそも弁護士費用特約の利用を認めるか否かという着手段階での同意に関しては、それを拒否すると保険金請求が一切認められないことになるから、そこでの同意拒否は、余程特別な事情がない限り、裁量の逸脱・濫用と評価されやすい。これに対し、タイムチャージを利用して30時間を超過する場合に同意するか否かに関しては、①約款上も上限が30時間と設定され、②個別に同意した場合に限って追加支払をするという規定になっていることからすると、保険者の裁量の範囲は広く、同意拒否も相当程度認められる余地がある。
どのような場合に裁量の逸脱・濫用となるかを判断する際の考慮要素に関しては、今後、もう少し議論が整理される必要がある。しかし、30時間を超えた場合の同意を巡る問題については、実務上は、弁護士費用保険ADRにおいて問題の解決を図っていくことが可能であるし、裁判の費用対効果も考えると、おそらく裁判まで行く事例は稀だと思われる。そのため、裁判例の集積を待って議論を整理していくことは難しいかもしれない。むしろ、弁護士費用保険ADRでは「見解表明」という手続があるので、そのような手続を経て、一定の見解が示されていく可能性があり、そのような見解の集積が実務上の指針となっていく可能性が考えられる。
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