2017.10.19
通勤中又は業務中に交通事故被害に遭った場合、被害者は、その加害者から賠償金を受領することも勿論可能ですが、労災保険からの給付を受けることも可能です。
両方からの給付を受けることが可能だとしても、二重に損害の填補を受けることは妥当ではないので、両給付間において調整が行われます(調整方法については、非常に複雑な議論のあるところですが、ここでは割愛します。)。
ただし、労災保険からの給付は、損害発生と同時に支払われるわけではなく、その支払にはある程度の期間を要します。
そのため、労災保険からの給付を受けたとしても、現実に給付金を受け取るまでの期間に対応する遅延損害金(支払が遅れたことによる利息)は発生し、それを加害者に対して請求する余地が残るのではないか、ということが問題となります(被害者の被った損害に対しては、事故発生日から、年5%の遅延損害金が付加されます。)。
この点に関し、最高裁は、例外的な場合を除き、被害者が労災保険給付を受けた場合、当該給付が填補の対象としている損害は発生と同時に填補されたものと考える、と判断しています。すなわち、「制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り」、損害発生と同時に填補されたものと評価し、労災保険給付が現実に行われるまでの遅延損害金の請求は認めないと判断しています。
ところが、今般、この「特段の事情」を認めた裁判例が登場しました(東京高裁平成28年8月31日判決)。
この裁判例の事案は、標準的な処理期間から著しく遅滞して労災保険給付が行われたもので、最高裁のいう「特段の事情」に該当すると認められたものです。このような場合には、損害発生と同時にその填補が行われたと考えることはできず、別途、遅延損害金の請求を求めることも可能となります。
今後問題となるのは、「特段の事情」と評価すべき期間がどの程度なのか(どの程度の遅滞があれば特段の事情に当たるのか)という点だと思われます。
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