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2021.05.07
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福岡高裁令和2年3月19日判決が実務に与える影響(人身傷害保険)私見

目次

    人身傷害保険金の過失部分填補機能

    交通事故で人身傷害が発生した場合には、主に、①加害者の加入する自動車保険の対人賠償責任条項で補償を受ける方法と、②被害者自身が加入している自動車保険の人身傷害補償条項で補償を受ける方法が存在する。一般的に、被害者側にも結構な過失が存在する場合、加害者側の保険会社は対人賠償責任条項での支払を拒否してくることがあり、その時には、被害者自身が加入している人身傷害補償条項で補償を受けることを先行させていくことになる。

    そして、人身傷害補償条項に基づく保険金(人身傷害保険金)は、被害者の過失の程度にかかわらず、約款で定められた支払基準に従って算定される。ポイントは「過失の程度にかかわらず」という部分である。加害者との関係では、請求可能な損害額には過失相殺が行われるので、被害者の過失に相当する割合だけ賠償額は減じられる。しかし、そのように減じられた部分も、被害者の損害自体は発生している。人身傷害保険金は、そのように加害者側からは填補されない損害部分(=過失相殺された部分)に優先的に充当されることになる。

    例えば、ある交通事故によって、被害者Aには、治療費・休業損害・慰謝料等として、「100万」の損害が生じたとする。ただし、Aに3割の過失があれば、加害者Bに請求できる損害額は、「70万」となる。そうすると、過失相殺された「30万」の部分は、加害者Bからは補償されないこととなるが、人身傷害保険金はそれを補填する効果を持っている。

    したがって、人身傷害保険金として、先に、「40万」が支払われた場合には、その内の「30万」部分は、過失相殺されてしまう部分の損害を填補する効果を生じる。その結果、被害者Aの損害は、残り「60万」(100万-40万)となり、この金額であれば、加害者Bが支払うべき金額(70万)の範囲内に収まるから、結果的に加害者Bからは残りの損害額60万全額が支払われ、被害者Aとしては、合計で「100万」の補償を受けることが可能となる。

    これが、従来までの人身傷害保険の一般的理解である。しかし、福岡高裁判決は、そのような方向性を変えるものである。

    福岡高判令和2年3月19日判決の内容

    対人賠償責任保険の支払を拒否され、人身傷害保険金の支払を先行させる場合、その人身傷害保険金の中には、2種類の性質を持った部分が存在することになる。すなわち、①強制保険である自賠責保険から支払われるべき部分と、②その上澄みとして任意保険会社が負担すべき部分である。重大な怪我を伴わない事案であれば、自賠責保険の支払基準に従って保険金の額を計算していくと、自賠責保険の保険金額(傷害部分120万円)を下回る場合も多いところ、そのような事案であれば、人身傷害保険金として支払われるのは、①の部分(自賠責保険から支払われるべき部分)のみとなり、②の上澄み部分は生じてこない。

    この福岡高裁の判決は、先行して支払われた人身傷害保険金の内、①の要素を持つ部分(自賠責部分)については、被害者の過失部分を填補する機能を有していないという判断を示したものである。もう少し正確に述べると、人身傷害保険金の支払に伴い、被害者の有していた自賠責保険金請求権が合意によって保険会社(人身傷害保険保険会社=人傷社)に移転し、移転した権利に基づいて人傷社が自賠責保険金を回収していることから、その部分については、加害者が被害者に賠償金を支払ったことと同視し得るという判断である。

    その結果、先の事例で説明すると、被害者Aが人身傷害保険金として40万を受領した場合、人傷社は40万を自賠責保険に請求して回収を行うことから、被害者Aとしては加害者Bから40万の賠償金を受領したことと同視され、したがって、その後に被害者Aは、加害者Bからは30万(70万-既払い40万)しか受領できない。この場合の被害者Aの総取得額は、人身傷害保険を合わせても100万ではなく、70万に留まってしまう。これでは、結果的に、人身傷害保険に加入していた意味(過失部分の填補)が殆ど無いことになってしまう。

    理論的な妥当性

    本来、保険法や人身傷害保険の約款に基づけば、人身傷害保険の支払に伴って保険会社が自賠責保険金の請求権をすべて取得すると考えることは、当然には認められない。被害者に過失がある場合には、人身傷害保険金はその過失部分を補填し、補填した上で余剰部分があれば、余剰部分に限って請求権を代位取得するに過ぎない。

    しかし、人身傷害保険の支払に際して作成されている協定書には、定型的な文言として、自賠責保険金の請求権が移転する旨の文言が入っている。福岡高裁判決は、そのような「債権譲渡の合意」の存在を認定することで、保険法や約款に基づいて本来的に生じてくる代位の範囲を超える権利移転を認めている。

    保険契約において、約款の範囲を超える権利譲渡(しかも被保険者に不利な権利譲渡)を認める合意を簡単に認めることには違和感を覚えるものの、そのような個別合意自体が法律上禁止されるものではないから、協定書に基づく合意が認定できる以上、理論的にはやむを得ないように思われる。実際の実務において、人傷社による自賠責保険金回収は当然に行われていることであるし、そのような回収を行うことは、多くの弁護士であれば、当然に想定していることであり、その点に誤解はない(加害者との間で訴訟にならず、示談で解決する場合には、人傷社による自賠責保険回収分が後に不当利得として返金されることもないはずである)。問題は、加害者との間で訴訟になった場合である。その場合、人傷社による自賠責保険金の回収が行われていたとしても、それが当然に加害者による支払と同視されることまでは、通常の弁護士であれば、想定していなかったはずである。これまでは、そのような理解を前提に、裁判所の判決や和解に基づいて、人傷社が回収し過ぎた自賠責保険金を加害者側に返還する処理が行われてきた。多くの弁護士としても、そのような処理が行われることを前提に、人傷社による自賠責保険金の回収を黙認してきたように思う。また、加害者側の弁護士としても、人傷社による自賠責保険回収部分は裁判の結果によっては返金処理がされ得る暫定的なものとして、それを当然に加害者による既払い金として控除すべきであるとも主張しないことが一般的であった。しかし、この福岡高裁判決によると、訴訟の場面においても、人傷社による自賠責保険回収が直ちに加害者による支払と同視されてしまうため、被害者の過失相殺部分が填補されないという結果が生じてしまい、被害者側の通常の期待を裏切る結果となる。したがって、この点は、判決で指摘されているように、事後的に、被保険者と人傷社との間の問題として適切な調整が行われるべきである。要するに、回収し過ぎた自賠責保険金を人傷社が「被保険者(被害者)」に返金する処理が行われるべきである。元々は、訴訟の結果を前提とすれば過剰となる回収部分を、人傷社が加害者側に返金していたものを、被保険者(被害者)に返金するだけだから、人傷社としても実質的に大きな変更ではない。また、そのような返金の理論的な根拠としては、色々と考えられる。例えば、①被保険者からの人傷社への自賠責保険金請求権の譲渡合意は、後で加害者側との裁判の結果が出て、訴訟基準差額説に照らせば過剰な回収であったことが判明すれば、その点については加害者側又は被保険者に返金することを含意した合意であると解することが可能と思われる(返金合意を含んだ債権譲渡)。さらに、②人傷社が、仮にそのような条件付きの返金合意を含んでいないと主張するならば、約款を超える代位を含む協定書であったことの十分な説明が必要であったと考えられるから、そのような説明を怠って被保険者の合理的期待を裏切った点につき、説明義務違反を根拠とする損害賠償請求といった構成も考えられる。

    ただ、返金額の算定には、少し悩ましい問題があるようにも思われる。すなわち、後遺障害がなく、傷害部分の自賠責の保険金額の範囲内で収まるような案件において、先行して人身傷害保険金の支払を受ける場合には、①人身傷害保険金の支払基準に基づいて算定された金額と、②自賠責保険の支払基準に基づいて算定された金額とを比較すると、前者(人身傷害保険の支払基準)の方が低くなる。この場合、人身傷害保険の約款上、自賠責保険の支払基準額まで保険金の額を引き上げ、自賠責保険の支払基準に基づいた保険金を人身傷害保険金として支払うことになる。このような引上げ部分(②-①の差額部分)は、自賠責保険への請求権を人傷社が取得する前提で引き上げている部分といえるから、その部分に関しては、自賠責保険金請求権は合意に基づいて有効に移転し、さらに、上記のような返金は想定されていない部分であるようにも思われる。人身傷害保険金の支払基準に基づいて算定された額(①)に相当する部分は、被害者の過失部分を補填する機能を有していると考えるべきであるが、それを超える部分(自賠責保険金の支払基準への引上げ部分)については、そのような機能を当然に有しているとまでは言いにくい。被害者側としては、このような引上げ部分も含めて自らの過失部分を補填する機能を有していると期待している可能性はあるし、これまでの実務ではそのような期待が一般的であったように思われるが、それが「合理的な」期待であったといえるかは、微妙である。この引上げ部分は、人傷社として自賠責保険金を回収し得ることを前提として、人身傷害保険の支払基準に上乗せをしている部分であることから、この部分に関しては、上記のような返金合意が含意されていると解することは、少し難しいように感じる。また、その部分が返金されなかったとしても、被保険者の「合理的な」期待を裏切ったという根拠に基づく損害賠償請求の構成も難しいように感じる。返金額に関するこのような結論は、被害者の過失部分の補填機能との関係でみれば、訴訟を通じて加害者からの賠償金の支払いを受けた後に人身傷害保険金の支払を受ける場合と同じ結果ともたらすものであるから、妥当だと思われる。

    例を用いて説明すると、被害者Aの全損害が「100万」、被害者の過失を5割、人身傷害保険金として「40万」の支払を受ける場合を想定する。この場合には、自賠責保険の保険金額の範囲内で収まる場合であるから、人身傷害保険の支払基準で計算すれば、例えば「30万」にしかならないと仮定する。ここでは、自賠責保険の支払基準への引上げが10万行われることになる。そして、まず被害者Aが人傷社から40万の人身傷害保険金の支払を受け、その後に人傷社が自賠責保険から40万の回収を行えば、被害者Aが加害者Bから受領できる賠償金は、残り10万となる(100万の全損害から5割の過失相殺を行うと50万となり、そこから既払い40万を控除する)。もちろん、この場合の加害者Bへの請求は、訴訟で行う必要がある点には注意が必要である。そうすると、加害者Bへの訴訟が終結した時点で、被害者Aは、人身傷害保険金40万と、加害者からの賠償金10万の合計50万を取得していることとなる。そして、被害者Aには5割の過失があるから、過失相殺されている額は50万であるのに対し、人傷社からの支払保険金は40万に過ぎない。約款に従えば、本来は、代位は生じない事案である。ただし、自賠責保険の支払基準への引上げ部分の10万は有効に債権譲渡を受けていると解すべきであるから、その部分の自賠責保険金の回収は正当化され、返金の必要はない(ように思う)。これに対し、残りの30万部分(人身傷害保険金の支払基準に基づいて人傷社が本来的に負担すべき額)は、債務不履行や不法行為を理由とする損賠賠償金として返金が行われるべきである。その結果、訴訟終結時点での回収額50万に、返金額30万が加算され、最終的には80万が被害者Aの手元に入ることとなる。

    実務への影響

    福岡高裁判決は、これまでの人身傷害保険を巡る実務上の一般的な運用とは異なるものであるため、一見すると、大きなインパクトがありそうにも思える。

    しかし、加害者側が、人傷社による自賠責回収部分の既払い金控除を主張しない限り、この問題が顕在化することはないと思われる。従来から、判決になった場合には、判決結果に応じ、保険会社間では、人傷社が回収し過ぎた自賠責保険金を不当利得として加害者側に返還するといった処理が行われてきた。すなわち、人傷社に対する自賠責保険金の支払は、訴訟の結果によっては返金も必要となる暫定的なものであるから、加害者側としても、そのような暫定的な自賠責保険金の支払が当然に既払金に該当すると主張しない例が多かったと思われる。加害者側から見た場合、確かに福岡高裁判決が指摘するような利益も皆無ではないだろうが、とはいっても、わざわざこのような主張をする実益は決して大きなものではない。保険会社は、時には加害者側の立場で対応し、時には人傷社の立場で対応するのだから、実益が乏しいのであれば、手続はシンプルな方がよいはずである。したがって、なるべく、従来のままの方向性(既払金として控除するのではなく、訴訟の結果を踏まえ、保険会社間で返金調整を行う手法)で行きたいと思うのではないだろうか。

    そのため、加害者側がこのような主張をすることが急に増える可能性は、高くはないように思われる。とはいえ、そのような主張をされる事案もあるだろうし、その場合には、人傷社との事後的な返金処理がスムーズに進むのかも現時点では不透明であるため、弁護士としては気持ちの悪さが残る。

    人傷社との間で取り交わす協定書に「約款の定める範囲に限って譲渡する」という旨を明記しておけば、約款を超える回収部分は後で返金する旨の合意が含まれているという認定に流れやすいのかもしれない。ただ、私見としては、それがなくても返金合意は認定されるべきだと思う。

    いずれにしても、前述したような回収し過ぎた部分を被保険者に返金する実務的な運用方法を早く確立してもらいたい。

    最後に

    この問題は、現時点ではまだ十分に論じられていない。

    そのため、上記の見解も、私の個人的な意見に過ぎないので、その点はくれぐれもご注意ください。

    この福岡高裁判決に対しては、上告受理申立がされているようなので、その結果をみるのが楽しみである。

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