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2021.08.14

福岡高裁令和2年5月28日判決(人身傷害保険金請求権と相続放棄の注意点)

目次

    問題の所在

    現在、多くの自動車保険には人身傷害保険がセットされている。人身傷害保険とは、傷害保険の一種であり、被保険者に死亡又は傷害の結果が生じた場合には、たとえ自損事故によるものであったとしても、約款で定められた支払基準に基づいて算定された保険金を支払うというものである。

    この裁判例の事案でも、運転者が自損事故によって死亡したことから、相続人が人身傷害保険金の支払を求めて訴えを提起した。問題は、相続人が相続放棄をしていた点である。すなわち、人身傷害保険金請求権も一旦は被害者本人の下で発生し、相続によって承継される相続財産と考えると、相続放棄によって権利は失われてしまう。これに対し、人身傷害保険金請求権は、受取人の指定がある生命保険などと同様に、そもそも相続人の固有財産であって相続財産ではないと考えれば、相続放棄によっても失われるものではない。この裁判では、この点が争点になった。

    裁判所の判断

    裁判所は、人身傷害保険金請求権は、一旦は被保険者(死者)が取得し、法定相続人によって承継取得されるものであるという見解を採用した。したがって、有効に相続放棄した場合には、その者は人身傷害保険金請求権は承継しないことになる。(詳細は、判タ1482号64頁以下参照)

    上告受理申立てと結論の予測

    上記の判断に対しては、現在、上告受理申立てが行われているようである。しかし、おそらく最高裁も、福岡高裁の判断を維持するのではないかと思われる。

    学説上は、両方の説が存在する(判タ1482号65頁)。人身傷害保険は複雑な性格を持った保険であり、約款の定める支払基準に従って金額が算定され、具体的な損害額と一致してこないという点を重視して、定額給付型の保険(傷害疾病定額保険や生命保険)に近づけて考えると、固有財産という結論に至りやすい。それに対し、あくまで損害保険であるという性格を重視していくと、相続財産という結論に至りやすい。人身傷害保険は、具体的な損害にある程度までは対応してくるという性格もあるし、ある程度までは定額化されているという性格もあるため、非常に悩ましい問題となっている。

    ただ、人身傷害保険の特徴の1つとして、自賠責保険からの回収が可能な場合には、自賠責保険給付と不可分一体となって運用されている点を指摘できる(なお、この点は別の悩ましい問題を生じさせている。福岡高裁令和2年3月19日判決)。そして、自賠責保険への請求権は、判例上、損害賠償請求権の行使そのものと解釈されている(損害保険である)。そうだとすると、自賠責保険と不可分一体となって構築されている人身傷害保険の性質としては、損害保険と同様に考える必要があるように思われる。死亡損害に係る自賠責保険金請求権は相続財産であるから、人身傷害保険金請求権もそれと同様に解さざるを得ないように思われる。

    実務上の注意点

    相続放棄する場合、一般的な場合であれば、生命保険金請求権は固有財産であるから、相続放棄によっても失われないと思われる。したがって、死亡に伴う人身傷害保険金も、それと同じように考えてしまいがちであるから、注意が必要である。

    死亡事故の場合には、人身傷害保険金には逸失利益等も含まれるため、保険金の額は多額になる可能性がある。相続放棄をするか否かは、通常、プラスの財産とマイナスの財産を比較して判断すると思われるが、その際には、人身傷害保険金としての回収見込額も考慮して検討する必要がある。

     

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    交通事故問題の将来

    愛知県内の人身事故発生件数(平成27年)は4万4369件と報告されています(愛知県警察本部交通部「愛知県の交通事故発生状況」)。死者数は213件と報告されています。年別の推移をみると、交通事故発生件数は年々減少しています。しかし、都道府県別発生状況をみると、愛知県は人身事故発生件数も死者数も全国一位となっています。愛知県内の地域別発生件数をみると、人口も多いからだと思いますが、名古屋市が最も多い1万4250件と報告されています。自動制御など自動化も徐々に進み、自動車の安全性能は格段に高まっているとはいえ、やはり自動車は「凶器」に違いありません(勿論、大変便利なものですが)。
    私も名古屋市に住んでおり、事務所も名古屋駅前の錦通沿いにあります。名古屋市内を走る錦通、広小路通、桜通などは車線も多く、しかも直線ですから、特に夜間などは相当な速度で走行する車も珍しくありません。車線変更の際に合図を出す、一時停止では止まって安全確認をする、そういったことを守らないドライバーを見かけることもあります。私は弁護士として数多くの交通事故案件を取り扱う中で、交通事故被害に苦しみ、人生を大きく変えられた被害者の方を沢山見てきました。現在の法制度では満足な救済が受けられず、弁護士として悔しい思いをしたこともあります。ですから、そうした無責任な運転行為をみると、心の底から腹が立ちます。 ただ、こうした交通事故問題を巡っては、近い将来、大きな変化が起こると考えられます。とても望ましい変化です。それは、2020年代には完全自動運転が実現される見通しとなっているためです。当然ながら交通事故発生件数は大きく減少するものと思われます。また、仮に交通事故が起きたとしても、自動車の位置情報が数センチ単位で把握できるようになるわけですから、事故態様の再現も容易になります。ドライブレコーダーのような画像情報も保存されるようになるはずです。これまでは、当事者の話や現場の痕跡などから事故態様を再現していたわけですが、そうした作業は非常に簡略化されていくものと思われます。加害者側と被害者側の主張する事故態様が大きく食い違う、という事態も少なくなるはずです。さらに、完全自動運転となれば、もはやドライバーの責任を観念しづらくなるため、責任の所在についても大きく変化していくはずです。当然ながら、法制度、保険制度の大幅は見直しが必要となってきます。 これからの10年間は、交通事故を巡る問題が大きく様変わりする時期だと思います。まだ議論は始まったばかりですが、弁護士として大変興味を持っており、今後研究を進めていきたいと考えている分野です。そのような変化の中で、交通事故被害者側の弁護士として思うのは、新しい制度が、被害者側に不利なものであってはならない、ということです。変化を見守りつつ、必要であれば、声を上げていくことも弁護士として必要なことだと考えています。

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