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2021.08.26

東京高裁平成30年4月25日判決(車両保険と代位の範囲)

目次

    判決の内容

    被害事故によって車両が破損し、被保険者は、「修理費用」と「休車損害」の損害を被りました。そこで、車両保険の保険会社は、被保険者に対して修理費用のみを支払い、それによって加害者に対する損害賠償請求権(ただし修理費用に関する損害部分)に代位したと主張しました(車両保険は、休車損害をカバーしておりませんので、休車損害部分についての保険金の支払はありません)。この事案において、被害者である被保険者にも、3割の過失があると認定されています。

    この点につき、上告審である東京高裁は、上記車両保険金が休車損害を含む物的損害の全体を填補するものと解釈するのが当事者の意思に合致すると述べました。具体的には、支払った車両保険金(修理費用のみ)から、修理費用と休車損害の合計額の3割部分(過失相殺額)を控除した金額につき、保険会社による代位が認められるとの結論を採用しました。簡単にいうと、修理費用として支払われた車両保険金に対し、休車損害の内の過失相殺部分(3割部分)を埋め合わせる機能を認めたということになります。

    判決の評価

    保険を巡っては、「対応原則」と呼ばれる法理があると考えられています。この点はドイツやイギリスなどの諸外国でも同様の考えが採用されています。

    この対応原則を前提とすれば、車両保険は修理費用に対応するものであって、休車損害に対応するものではありませんが、この東京高裁は、かかる対応関係を柔軟に解釈し、「物的損害の全体」にまで拡張しているようです。

    このような解釈は、被害者保護という観点からは望ましいものであり、被害者としては、自らの過失部分を車両保険をもって最大限補填することが可能となります。

    ただ、対応原則という保険理論からみると、この点を巡っては、学説上批判的な意見が強いのではないかと思いますし、仮に今後、同様の事件が最高裁で争われた場合には、あくまで私見ですが、結論が変更になる可能性もあり得るように思います。

    実務への影響(あくまで私見)

    このような処理による利益を得ようと思うと、おそらく、加害者に対する訴訟提起を行い、裁判所が休車損害等を含めた物的損害の総額を算定することが必要になると思われます(訴訟提起しない場合には、従来からの対応原則に従った代位の処理がされてしまうのではないかと思います。)。この点は、人身傷害保険を巡って、裁判基準差額説による処理による利益を得ようと思うと、実際に訴訟提起することが前提になることと同様だと思います。人身傷害保険を巡っては、被害者の過失相殺部分への最大限の補填を受けるため、加害者に対する訴訟提起をする例が実務上はかなり存在すると思いますが、車両保険を巡っても、被害者の経済的利益の最大化を考えると、同様のことが言えるかもしれません。

    しかし、現状、車両保険を巡ってそのような訴訟提起が増加しているという話を、私は聞きません(知らないだけかもしれませんが)。したがって、この判決は、判決が出た当初に思っていたほどには、実務に大きなインパクトを与えているわけではありません。

    その理由を推測すると、おそらく、車両保険が填補対象としている修理費用や全損時の車両時価額以外の損害としては、一般的には代車費用がありますが、被害者にも過失がある場合には、有料の代車を使用しない例が多いことから、代車費用につき過失相殺部分を填補する必要性が乏しいのではないかという気がします。他にも、レッカー代がありますが、レッカーは被害者の加入しているロードサービスで対応される例も多く、その部分の過失相殺部分を填補する必要性が乏しいようにも思います。他に考えられる損害とすれば、評価損や、今回問題となっている休車損ですが、いずれも発生頻度の高い損害ではありません。さらに、東京高裁のように車両保険が物損全体を填補する性質を有していると解釈するとしても、車両とは切り離された積載物や携行品も填補対象に含めるような解釈は、あまりに対応原則を緩和し過ぎるもののように思われます(東京高裁がこの点をどのように考えているのかは必ずしも判然としませんが)。

    またそもそも、物損自体の損害額は、人損に比べて通常は低いことから、訴訟提起する実益が高くはないという観点もあるのかもしれません。

    いずれにしても、そのような理由から、車両保険の代位を巡って訴訟が頻発するという事態には、現在はなっていないのだろうと推測します。また、この東京高裁の裁判例自体の認知度もそこまで高くはないのかもしれません。

    被害者側の弁護士の立場(あくまで私見)

    被害者の利益の最大化という観点からすれば、代位の範囲を巡って訴訟提起する方針も十分あり得ると思います。特に弁護士費用特約がある事案なら、そうかもしれません。

    ただ、前述したように、あくまで私の意見に過ぎませんが、最高裁で争われた場合に、本当にこの判断が維持されるのかは疑問があるようにも感じています。したがって、そこまで単純に考えてよいかというと、個人的には心配な部分がある問題です。

     

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