2022.12.03
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他車運転危険担保特約(他車運転特約)とは、他人の自動車を一時的に借用して運転するような場合に、他人の自動車保険のカバーを利用するのではなく、自分の加入している自動車保険のカバーを他車運転中にも拡張することができる特約です。
したがって、この特約に加入していれば、借用中に事故を起こしてしまった場合にも、貸主の保険ではなく、自分の自動車保険を使って賠償金の支払いをすることが可能となります。貸主としても、安心して自動車を課すことができるというわけです。
ただし、この特約が使える条件があるので、注意が必要です。ここでは、そのような条件の1つを紹介します。
他車運転危険担保特約は、「運転中」に起こした事故に適用されます。そのため、駐車中や停車中の事故がカバーされません(ただし、信号待ち停車中などは運転中という扱いになります)。
一般的な対人・対物賠償責任保険は、自賠法3条の定める「運行によって」生じた事故は広くカバーしています。この「運行」という用語は、現在の裁判実務上、駐停車中も含むよう広く解釈される傾向があります。そうすると、他車運転危険担保特約の定める「運転中」とは、自賠法3条の定める「運行によって」よりも狭い概念ということになります。そのような解釈の結果、通常の対人・対物賠償責任保険ならカバーされる事故であっても、他車運転危険担保特約ではカバーされない事故が生じてくる可能性があります。
このように、他車運転危険担保特約では補償されない事故の被害者としては、車の所有者である貸主に対する責任追及を視野に入れることになると思われます。特に、実際に事故を起こした借主が無資力の場合には、そのような傾向があると思われます。
この点、人身損害に関しては、自賠法3条が運行供用者に責任を課していますので、車の所有者である貸主は、借主が起こした駐車中の事故等に関しても、運行供用者責任を追及される可能性があります。他人に無償で自動車を貸していた貸主に対しても、運行供用者責任を認めるのが一般的な裁判例の立場です。
したがって、車を他人に貸す場合には、借主の加入している保険に他車運転危険担保特約が付いている場合であっても、貸主にはそのようなリスクが残るといえます。
これに対して物損に関しては、自賠法3条のような運行供用者責任は存在しませんので、貸主が不法行為責任を負うかは、具体的な事情によると思われます(例えば、飲酒して正常な運転が明らかに困難である者に対して自動車を貸し渡し、その直後に事故を起こしているような場合には、貸主にも事故発生を予見できることから、不法行為責任を肯定する余地があると思われます。)。
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