2021.10.27
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日本には事後保険という商品はないが、イギリスなど海外では普及している商品である。
正式名称は、After-The-Event Insurance(略してATE insurance )といい、法的紛争が発生した後に加入する訴訟費用保険(弁護士費用保険)である。
例えば、不当に解雇されたことから解雇を争って損害賠償請求したいと考えた場合に、敗訴してしまったときの訴訟費用等の負担リスクに備え、その時点で、当該リスクを担保する保険に加入するのである。問題となる法的紛争が生じた後に加入するため、事後保険と呼ばれる。
もちろん、何でもかんでも加入できるわけではなく、保険者によって勝訴可能性が吟味され、勝訴可能性等に応じて保険料も変化する。
こうした事後保険が存在することによって、経済的資力が十分ではない人でも、弁護士への依頼可能性が高まる。司法アクセスを拡充させるための手段の1つである。
日本では、現在、正式な保険としての事後保険は存在しない。しかし、それに類似するサービスを提供している会社(ATE株式会社)がある。
2019年から販売されている商品のようで、要するに、弁護士費用(着手金)を立て替え、将来、賠償金等が取得できた場合には、そこから立替金の返還と補償料の支払を行うというシステムである。もちろん、このようなサービスを利用せず弁護士に委任した場合に比べると、通常は、補償料分支払は増えることになるが、着手金を自ら用意する必要がないことから、経済的資力に乏しい人でも、弁護士への委任が容易になる。
このサービスを利用して立替払いを受けた後、敗訴してしまった場合には、その立替金の返還が免除される。したがって、請求者としては敗訴リスクを引き受けなくてもよいことになっている。
これは法テラスと類似した制度でもあるが、資力要件がないことの代わりに、補償料の支払いが必要になる点が大きく異なる。また、このサービスを利用するためには、当然であるが、一定の審査があるようで、そこでは勝訴可能性などが検討されているものと思われる。公益的性格の強い法テラスに比べると、勝訴可能性としては、より高い可能性が要求されるものと思われる。
私も、現時点では利用したことはないが、今後、機会があれば利用してみようと考えている。
このような商品を巡っては、海外とは異なり、日本では色々と配慮が必要な部分がある(特に弁護士法72条)。私がみる限り、ATEリスク補償というサービスは、そのような日本の特殊性を考慮し、日本の法制度に合うように作られていると思われる。
上記立替サービスは、経済的利益が乏しい案件については、引き受けてくれる弁護士を探しにくいという問題はあると思われる。この点は、タイムチャージ方式が認められている弁護士費用保険の場合と比較すれば、よく分かる。
また、弁護士費用保険では、保険会社又は日弁連を通して弁護士紹介を受けることが可能であるが、上記サービスの場合には、弁護士は自分で見つける必要がある。日本では弁護士法72条との関係で弁護士紹介が規制されるので、これは法制度上やむを得ないことである。同社のホームページ上でも、弁護士紹介はできない旨が記載されている。
弁護士使用保険にしても、本件のような立替サービスにしても、日本では弁護士法72条との関係で、色々な制約がある。この制約をどのように評価するのかは、弁護士広告(弁護士紹介サイト等)とも絡む悩ましい問題であるが、いずれにしても日本の特徴的な制約の1つであることに間違いはない。
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